今日は、短歌でしか喋らない

短歌、生活についての備忘録

『宇宙で二人きりごっこ』

好きな人と、くっ付いてるのも好きだけど、とくに意味もなく一緒にいたり、たわいの無い話を出来るのがしみじみと幸せだなあと思う。例えば休みの日に一緒にご飯食べたりとか、テレビ見たりとか。気が抜けてるけどまだ心許してないし、家族でもないぞみたいな感じでそういう事しているのが。今日もそんな感じで恋人と一緒にいた。外は雨が降っていて、世界の終わりみたいに真っ暗な土曜日の朝だった。私たちはテーブルを囲ってもくもくと食事をしていた。何度目の朝だろう。わたしはふと思い付きで言ってみた。「ねえ」「なに」「あのさー、宇宙で二人きりごっこしない?」「は?」「宇宙で二人きりごっこ」
「私たちは核戦争によって滅亡した地球を命からがら抜け出した地球最後の二人で、お互いまったく知らない縁もゆかりもない同士なのに、それから二人きりで死ぬまで一緒に過ごさなきゃならないっていう設定で一日過ごしてみない?」
そんなわけで私たちはそういう設定で一日を過ごすことになった。わたしは地球最後の朝食を台所に下げて洗い始めた。「ああ、なんだか」
「すごくしみじみと悲しくなってきた。生活を思い出すとこんな気持ちになるんだね」
彼はいつもと変わらずにゲームをし始めた。それからわたしは本を読み始めた。彼があまり乗り気じゃないようにも見えたけど、とにかくわたしはこの地球最後の雰囲気を壊したくなかった。
別々でいるのが詰まらなかったので、わたしはとりあえず近くに寄ってゲームの様子を見てみることにした。「いま、これはいい調子?」「うん」「あのね」「んっ?」
「寂しいな・・・」
「それは、宇宙で二人だけごっこの続き?」
「そう」
「お腹減ったな。ずっと何も食べていないし」
不意に思い出した。わたしが電車で部屋で沈黙が怖くてずっと一人でくっちゃべっていたせいで「話合わない」と言って振られた数年前のことを。ちらと恋人の顔を見ると、視線はゲームの方に注がれていた。
「おなかへった」
じいっという機械がバカみたいなことを話してる自分に警告するように聞こえてくる。だから、その次に聞こえる声が自分を救い出すたった一つの声みたいに思えてしまう。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃない。寂しい。悲しい。ずっとずっと一人でいるのは大変なことだよ」
「よしよし」
彼は、視線をゲームに注いだままでわたしの頭を撫でてくれた。わたしは恥ずかしくなった。それに、なんだか泣きそうになってしまった。けど喋り続けた。
「私たちは、いつ死ぬの?」
「僕たちは、一年後に死ぬよ。」
「え?どうして?」
「宇宙では、それほど人間は生きていかれないからだよ。」
「、、、、」
意外な設定にわたしは面食らう。殺伐としたゲームをしているからか、男だからか、世界観はシビアだ。「一年後僕らはしわくちゃになって死ぬよ。それが『宇宙時間』」
「、、、」
「泣いてるの?」「うん」
「かわいそうに。こんなに綺麗なのに、一年後にはもう君の去年死んだ婆さんと同じようになる。やるべきことをやってこなかったからだね。命がずっとあると思い込んで生きてた罰を皆が受けたんだね。でも死ぬときは一緒だよ」
恋人ははじめてわたしの方を見て言う。
「優しいね。どうしたの?」
「ごっこだから。会社ではもっと厳しいよ」
「あなたの顏は●●●みたい」
しーん
「恥ずかしがるなよ。君が言い出したのに」
そうだった。わたしはごっこを続けなくてはならないのだった。わたしが思ってたよりもずっと恋人は「ごっこ」するのがうまいようだ。ゲームばかりやっているからかもしれない。思い付きで始めた二人きりごっこはなかなか心地よかった。
「ねえ」
「ん?」
「私たちが死ぬまでに、たくさんもの食べよう。たくさん話をしよう。それからたくさん、セックスしよう。」
「うんいいよ。どうせ死ぬんやねんからな」
「わたしに何か特別な事してほしいと思う?サービス。例えば風俗でしか出来ないことだとか、料理いっぱい作ってもらうことだとか、面白いことやり続けて欲しいだとか」「うーーーーーーーーーー
ーーん」
どきどきしてわたしは待っていた。
「特にないかな」
「わたしに何かして欲しいことってないの?例えば踊るだとか」「うーーーーー
ーーん」
「特にないかな」
「じゃああなたってもしかして幸せなの?」「うーーーーー
ーん、たぶん」
わたしはほっとして恋人にくっ付いた。「嬉しいな。生き残ってくれててありがとう。」
「うん。どういたしまして」
「大変だった?いろいろ」
「、、、、、、」
宇宙で二人きりごっこはゲームが佳境に来るに連れてネタ切れになってきていた。
「お腹空いたな・・」「台所にバナナあったよ」
「ねえ」
「ん」
「地球から私たち抜け出してきたっていうことは、たぶん家族とも別れて、あと人殺したりとかもして来たんじゃない?」
さらなる展開を試みる私である。
「そうだね。僕はスナイパーだから。僕を雇うのは結構大変だったよ。俺は1499人は人を撃ち殺して来たから」
ふうん、と応える。ちがう、なんか違う。そういうんじゃなくて、もっと自分たちは天涯孤独なんだって気分を寄せ集めるような遊びをしたかったのに。
「人を殺すのって楽しい?」
「楽しい」
「うそ」
「楽しいよ。見て。」ゲームの画面を見る恋人。
「全部おれの得点」ニッコリと笑う。
「駄目だよ。人を殺したら」「憎悪渦巻く町では生も死もないよ。生は死と共にある。死は亡霊なんだ。ぼくは、自分が生きてるんだか死霊なんだかずっと分からなかった。人に会うまではずっと。人と会って話してるうちに、僕は人間なんだなって思い出す事が出来たんだ」
そうなのだ。舞台は核戦争の起きた町東京なのだった。
「私のことも殺すつもりある?」
「君は大事な子孫残すうつわだから。命よりも大切だよ」
「、、、、」
はあっとわたしはため息をついた。さっき、わたしがわんわん言ってたときは、昨日の夜よりもずっと暖かな空気が流れてたような気がしたのに。これじゃ恋人でも家族でもない。単なる用意されたつがいみたいだと思った。ごっこ遊びの中にいるわたしは、彼の内面を少しだけ見れたような気がした。それからちょっとだけ寂しくなった。
「あっ雨があがってる」
「本当だ」外を見るとかすかに光が差し込んで来る。空のずっと遠くには青空が広がっている。
「外へ行く?」「えー」
「行こうよ。」「うーんまあ」
「僕らって、他人だなあ」「、、、」
恋人は立ち上がる。「本当。」
「ねえ何かもし、寂しいって思ってるなら本当に外へ行こうよ。」「うん。」
「それから、一緒に映画見よう。本を選ぼう。音楽聞こう。僕も君もまったくちがう人間だから、一緒に何かしようよ。さっき君も言ってたじゃない。宇宙最後の生き残りの、縁もゆかりもない僕らが二人でいる意味がきっと何か見つかると思うよ」
「うん、そうだね」わたしも笑った。
宇宙で二人きりごっこはなかなかよかった。それからもする事がなくなるとわたしは特にスタートの合図もなくそれを始めたりしてみた。恋人も役をこなすのがなかなかうまかった。わたしはその舞台で子どもみたいになったり、友達みたいになったり、恋人を煮詰めたようなときの気分をうまい具合に食べ散らかしていった。それに、それをしたおかげで、恋人のことをより一層愛しいと思うようになった。